我々が
遠くイタリアのパドヴァに到着したのは7月2日のことだった、気温は30度を超え日差しはとても強いが、日陰は涼しくさえ感じられた。ちなみにパドヴァは、イタリアでは大学者の町と呼ばれ、コペルニクスが学び、ガリレオが教鞭をとった由緒ある大学がある所だ。ここへ来たのは、『2050年、サッカーW杯の優勝チームに勝つロボットチームを実現する』をキーワードにしたロボカップに参戦するためだ。
われわれのロボットはヒューマノイド型で名前はFirstep。 Firstep(ファーステップ)の名前は、最初の第一歩という意味を含んだ、我々が作った造語だ。チーム名はHITS dream。 |
firstepとロボコン部員 |
広い倉庫でセッティング中
|
会場
は、とても広く正直唖然とした。それもそのはずだ、競技カテゴリーは全部で8種類もあるのだ。簡単に書くと、我々が参戦したヒューマノイドリーグ(人型ロボット)。ゴルフボールをサッカーボールに見立て、お互いに複数台の自走式ロボットで、サッカーの攻防をする小型ロボットリーグ。これを将来のロボットエンジニアであるジュニアが行うジュニアリーグ、そして普通のサッカーボールを使う中型ロボットリーグ。
コンピュータのプログラミングテクニックだけで、サッカーの試合を大型ディスプレイで行うシミュレーションリーグ。1チームがアイボを4台使って行うアイボリーグもある。また、災害時の人命救助を行うレスキューリーグというものも有る。
ヒューマノイドリーグには、日本を始めとして地元イタリア、ロシア、スウェーデン、シンガポール、カナダから学生を中心として合計8チームが集まった。みんな各地の予選を勝ち抜いてきた強豪だ。 |
競技会場
|
アイボリーグ
|
到着の
翌日に、我々のファーステップを開梱し試運転をした。日本からの長旅にもかかわらず、ファーステップも我々も順調であった。そして、5日に開会式が
行われ、主催者側のリクエストで、我々はファーステップがサッカーボールを蹴るパフォーマンスを披露。調整は時間がかかり大変であったが、なかなか良い感
触であった。
6日から競技が始まった。まずは片足立ちである。ついでに軽くダンスをさせてから、片足立ちをした、会場は騒然となり拍手喝さいであった。続いて午後に
は、身長の5倍の距離を往復するという競技。ファーステップ
が得意とするところである、これも拍手の中無事に演技を終了した。この時点で競技を満了できたのは、半数の4チーム。優勝争いはこの4チームに絞られた。 |
記者会見会場入口
|
開会式でパフォーマンス
|
片足立ち
|
歩行競技
|
7日は
パフォーマンス競技、これは各チームが個性を出し合っての自由演技だ。我々は日本をアピールするために、盆踊りファーステップにやらせた、太鼓の祭囃子の
BGMの中、演技終了した。後は、この大会の目玉
であるPK戦を残すのみだ。
ここで、総合優勝するためのルールについて簡単に説明しよう。競技をすると、結果によって点数を得られることが出来る。この点数を合計して総合優勝を決
めるわけだ。しかし、ロボットによっては、我々のように既製
品のもある。そのほか完全に自立であったり、無線や有線でコントロールされていたりと多種多彩である。これらのファクターでハンディキャップが負荷される
のだ。我々のハンディキャップはかなり高く、競技によっては得た得点が3分の1近くになってしまうのだ。
だから現時点で、どうやら総合1位のようであったが、2位との差は非常に小さく、PK戦の結果によっては、首位転落だ。 |
盆踊り
|
ねじり鉢巻は似合う?
|
ライバル達
|
ライバル達
|
このような緊張感の中、8日と9日にPK戦が行われた。ところが我々と相対する大きさのロボットが動かなくなってしまったのだ。このままでは競技がキャンセルされ、無得点になってしまう。急きょリーダーズミーティングを行い、子供とPK戦を行うことを提案した。しかし子供とはいえファーステップがけったボールは簡単にキャッチされてしまう。一応子供が横に動いてボールを取ったら、得点とみなすと言う苦肉のルールが採用された。
2回PK戦を行い、ファーステップは無事得点を得ることが出来た。しかし残念ながら満点ではなかった。2位チームの結果によっては逆転だ。すべての競技が終了した。後は集計を待つだけだ。 |
PK戦(対人間)
|
キーパーの少年たちと
|
競技終了後、約1時間待たされた、長〜い1時間であった。
集計結果が出た、僅差で1位だ。しかし、安心できなかった。集計ミスや内容に対してクレームが出るかもしれない。一瞬、間があった。緊張した。いきなり、全チームから拍手が沸きあがった。この瞬間、我々は勝利を確信した。そうだ、我々は勝ったのだと。しばらくして、表彰式が行われた。その中で我々はヒューマノイドクラスの総合優勝ということで、なんと一番最初に呼び出され、そしてあのハンドバッグ等のブランドで有名なルイ・ビトン社からクリスタルの杯を授かった。このルイ・ビトン・カップは持ち回りではあるが、2050年のサッカーW杯の優勝チームに勝つロボットチームにまで引き継がれる由緒あるカップとなるのだ。ここに我々の学校のHITSの名前が末永く残されることとなった。 |
カップ授与
|
受賞の記念写真 |
なお、ヒューマノイドリーグの結果は、1位が我々HITS dreamで、2位が大阪大学のセンチャンズ、3位が兵庫県宝塚市から来たFOOT-PRINTSとなった。日本勢で上位を独占したわけだ。しかしこの3体のロボットの得点差は僅差であったので、来年以降我々は楽観できる内容ではない。来年のポルトガル大会に向け、部員一同さらに自主性と工夫を組み込んだファーステップの改良を続けていくことを誓って、今回の参戦記とします。 |